見積業務のAI効率化プロジェクト①
~ 2時間かかる見積を、10分にしたい ~
目次
- ● なぜ、このプロジェクトが必要になったのか
- ● AIを使うと、費用面でどう変わるのか
- ● 当初の想定は、どう進めるつもりだったのか
- ● 最初にぶつかった壁
中小企業の皆様、こんにちは。
今回から3回にわたり、卸売業のある企業さまで取り組んだ「見積業務のAI効率化プロジェクト」をご紹介します。システム会社には外注せず、私と会社様とで、AI(Claude)を使いながら開発し、現場に導入しました。ポイントは、導入後の更新作業を、自社で、自動で行えるようにしたことです。
第1回は導入編です。見積1件に2時間以上かかっていた現場で、何が起き、どこでつまずいたのかをお伝えします。なお、クライアント名や取引先、商品名などが特定されないよう、一部の数字はぼかしています。
なぜ、このプロジェクトが必要になったのか
卸売業のある企業さまでは、見積を1件作るのに、多い時で2時間以上かかっていました。
この会社の基幹システムは、過去に、多額の投資をして構築されたものです。しっかりと作られており、日々の基幹業務を、いまも安定して支えています。ところが、近年は値上げが頻繁に起こるようになりました。これは、システムを設計した当時には、想定されていなかった事態です。ERPには単価ランクの仕組みがありますが、更新されないままで、1,000点以上ある商品の実際の値引き率とは、ずれが生まれていました。
その結果、現場には、3つの手間が生まれていました。
1つ目は、値引き率を探す手間です。営業担当者は、商品コードを手がかりに、ERPの中から過去の取引を探します。これまで取引のなかった品目でも、ずっと前に取引があったかもしれません。探しても見つかるとは限らない、先の見えない作業でした。
2つ目は、見積書をつくる手間です。見積書に記載するのは、長いJANコードや、売価などです。ところが、JANコードは、現在のERPからはコピーできない仕様となっています。売価は、営業担当者が原価を見ながら決めますが、原価が頻繁に変わることは、ERPの設計当時には想定されていませんでした。ERPには、こうした見積に対応する機能がありません。そのため、JANコードも売価も、Excelに手作業で書き込むことになります。
3つ目は、値上げ時の資料づくりの手間です。値上げの際は、数百点以上の商品が一度に値上がりします。そのたびに、JANコード、過去の価格、今後の価格などを整理した資料を作る必要があり、これも大変な作業でした。
品目が多い見積ほど、また値上げの時期ほど、これらの作業が積み重なり、見積1件に、多い時で2時間以上かかっていました。
AIを使うと、費用面でどう変わるのか
今回のプロジェクトにかかった費用は、次のとおりです。
- ● AIの利用料:月額220ドル(Claude Maxプラン)
- ● 専用PC:約30万円
- ● コンサルティング費用:外注費用の概算下限値より、圧倒的に低い金額
同じ条件でシステム会社に外注した場合の試算は、工数にもよりますが、300万円から1,000万円強でした。外注の場合は、これとは別に要件定義費用がかかることも多いようです。コンサルティング費用を含めても、費用は外注した場合の試算を大きく下回ります。業務を理解している人間が、AIを使いながら直接作る。このやり方なら、要件の伝達ロスがなく、改修も素早く行えます。
さらに、更新作業は自社で行えるため、外注した場合に更新や改修のたびに必要となる追加費用は、かかりません。
見積1件にかかる時間は、品目数にもよりますが、10分前後が目安です。
当初の想定は、どう進めるつもりだったのか
当初の計画は、2段階でした。
第1段階:過去10年分の売上単価、仕入単価マスタなどのデータを読み込み、得意先と商品ごとの実績売価を取り出す。仕入原価と突き合わせて実際の値引き率を逆算し、データベースにまとめる。
第2段階:そのデータベースを使った、見積支援アプリを作る。
基幹システムには一切手を入れず、基幹システムが持つ情報だけを活用する方針です。想定期間は約7週間(環境設定1週、設計3週、テスト運用と本格運用で3週)。AIに任せれば、案外すんなり進むだろうと考えていました。
もう1つ、もっとも留意したのは、セキュリティ面でした。専用PCは社内LANのみで動かし、外部との通信は、AI(Claude)に仮名化したデータを送るとき、お問い合わせが来たときに担当者へ自動メールで通知を送る機能、Windowsのアップデートなど、最小限にとどめています。得意先名や商品名などが、そのまま外部に出ることはありません。
まず過去のデータから値引き率を逆算してデータベースをつくり、そのうえで見積アプリをつくる。想定は、この順番でした。
最初にぶつかった壁
その想定は、早々に崩れました。
壁① 自社ですら、値引き額・値引き率を把握していなかった
過去の請求から、値引き額を推計することはできます。しかし、その推計が正しいかどうかを確かめる手段がありません。答え合わせができないのです。
確かめるには、正解を持っている人に聞くしかありません。ところが、正解となる資料が共有フォルダのどこにも見当たらない商品が、たくさんありました。
推計値と確定値をどう区別して持つか。間違っていた時に、どこまで遡って直せるか。データベースの設計を、根っこから考え直す必要がありました。
壁② 設計が終わらない。3歩進んで2歩下がる
想定では、2〜4週目でデータベースとアプリの設計を終えるつもりでした。実際は、1週目に環境設定を終えたあと、2週目から8週目まで、データベース設計の繰り返しでした。修正と変更を重ねた回数は、32版にのぼります。見積アプリがテスト運用に入ったのは、9週目の現在です。
繰り返しの原因は、主に3つです。
- ● Excelの読み込めていない行が、あとから見つかる(仕入先によって用語がバラバラ、セルが結合されているとAIが特定できない)
- ● 用語が複数並び、何が必要なデータなのかを、私が現場に確認しに行く
- ● 「このデータも参照したほうがいい」と、新たな資料が出てくる
確認して直すと、次の抜け漏れが見つかる。進んだと思ったら、少し戻る。3歩進んで2歩下がるような感覚で、このプロジェクトでいちばん苦労した部分です。
次回は、この壁を乗り越えるために、Claudeにどのような役割を持たせていったのか。実際の設計の様子と、そこで味わった苦難を、具体的にお伝えします。
AIは、データを入れた分だけ、現実に近づいていきます。ただ、それを実際の運用に乗せるとなると、AIの性能とは別のところに、もうひとつのハードルがありました。そのお話は、連載の最後に。
