新規融資の際に押さえておくべきポイント①
~ 債務者区分と新規融資の関係 ~
目次
- ● 債務者区分について
- ● 正常先になるためには
- ● なぜ正常先しか融資しないのか
中小企業の皆様にとって、地域金融機関は資金相談の最重要パートナーであることが多いと思います。いち早く融資を受けたい社長様は、金融機関担当者より要求された「3期分の決算書、試算表、資金繰り表」を提出しても、担当者より「まだ検討中です」などの返答をされ1ヶ月近く待たされた挙句に「今回は支援できないです」などの回答を得られた方も多いのではないでしょうか。
中小企業様と地域金融機関とのギャップとして、①意思決定までの時間軸の差、②融資の必要書類作成の煩雑さ、の2つが大きく異なる感覚のズレではないかと認識しております。
本コラムでは「債務者区分と新規融資の関係」を解説します。金融機関担当者は貸出の営業マンですので融資をしたいのです。ただし、現実として融資に至らない先方事情を押えておくことで今後の新規融資獲得に向けた行動変化に繋がれば幸いです。
債務者区分について
債務者区分とは、金融機関が実施する自己査定により融資先を5段階に分別することです。金融機関はあなたの会社を「正常先」、「要注意先(その他管理先、要管理先の2つに内訳する)」などに勝手に振り分けします。(注1)
新規融資を受けるためには、自社が「正常先」もしくは「数年後に正常先になる要注意先」と金融機関から判断されなければなりません。つまり、黒字決算であることが重要になります。
正常先になるためには
正常先として金融機関から評価を受けるためには、①黒字決算が続いていること、②帳簿純資産が一定水準以上にあること、が挙げられます。例外的には、③創業赤字であるが概ね5年以内に黒字化する場合、④一過性の損失により赤字決算である場合、⑤中小・零細で返済能力について特に問題が無い場合、とされています。(注2)
それぞれ具体的に見ていきます。
①黒字決算が続いていること
営業利益、経常利益、当期純利益の全てが黒字であることが基本と考えます。営業利益は赤字であるが、経常利益、当期純利益が黒字の場合でも問題ないかと思われますが、営業赤字の要因をヒアリングされると思います。
黒字決算が続くとは、基本的には3年間の決算書が黒字であることと考えます。但し、新たな金融機関でなく既にお付き合いのある金融機関ですと、1~2年間の黒字決算で借り換え対応などの新規融資に対応して頂ける可能性はあります。
②帳簿純資産が一定水準以上にあること
貸借対照表の右下にある純資産の金額が最低プラスでないといけません。マイナスの場合、正常先から外れてしまいます。
純資産が一定水準以上の一定は金融機関により異なるため一概に言えません。例えば、貸借対照表に信用保証料の前払費用などの資産を計上している場合、金融機関の純資産査定の中で純資産から控除される科目として採用されていると聞きます。そのため、純資産が100万円のプラスの場合でも、信用保証料の前払費用を150万円計上している場合、純資産額は100万円-150万円=▲50万円と計算されマイナスになりますので、100万円の純資産は一定水準では無いと考えられます。
③創業赤字であるが5年以内の黒字化すること
④一過性の損失により赤字決算であること
一過性の損失とは、建物などの売却損などが発生したことで赤字決算となった場合、翌期からは一過性の損失が無くなることで黒字決算が想定されるため正常先として判断して良いとのことだと考えられます。余談になりますが、新型コロナウィルスによる経済低迷、地震災害、円安などの社会全体が受ける外部要因による業績悪化に対しては、信用保証協会のセーフティーネット保証や日本政策金融公庫の制度融資などが整備され、赤字決算でも新規融資が受けられやすい環境になることがあります。
⑤中小・零細で返済能力について特に問題が無いこと
中小・零細企業につき返済能力に特に問題が無いとは、金融機関借入金を最低10年以内に返済できる収益力を持つイメージです。借入金を返済する年数を債務償還年数と言いますが、金融機関により計算方式が若干異なります。
最低10年以内の返済と記載しましたが、運転資金の返済期間は5年のため5年前後までに抑えればより良いと思います。
なぜ正常先しか融資しないのか
最後になります。なぜ金融機関は正常先しか融資しないのでしょうか。答えは、「正常先未満の債務者区分の事業者に融資しても、管轄する営業店のポイントにならないから」なのでしょうが、貸倒引当金という概念から見ていきます。
貸倒引当金とは、融資先からの回収リスクに備えて費用を計上することです。金融機関の貸倒引当金の計算手法は高度なモデルにより算定されているようですが、正常先とそれ以外では貸倒引当率が大きく異なることに特徴があります。
正常先の貸倒引当率は融資額に対し0.1~0.5%とされていることに対し、要注意先の要管理先以外は3~8%、要管理先は50%程度、破綻懸念先は80%程度、実質破綻先以下は100%となります。実際の数字に当てはめた場合、資金ニーズが大きい要管理先が3,000万円の融資を希望し、金融機関が実行した場合、金融機関は3,000万円×50%=1,500万円を費用としてマイナス計上しなければならないことです。(注3)
ある地域金融機関の1担当者の年間新規融資目標額は3億円程度と聞いたことがあるのですが、正常先以外の事業者に融資することは、マイナス事項の取り扱れ方によっては年間目標額の営業目標に寄与しない可能性があります(断定は出来ませんが)。
本コラムでは、新規融資の際に押さえておくべきポイントとして「債務者区分と新規融資の関係」について言及してきました。
今後とも、中小企業の社長様に役立つ情報を定期的に配信していく予定です。
コラム②:新規融資の際に押さえておくべきポイント② ~ 信用保証協会と新規融資の関係 ~
(注1)債務者区分は、「正常先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」、「破綻先」の5段階に分類されます。さらに、要注意先については、「その他管理先」と「要管理先」の2つに分けて管理されます。
(注2)金融検査マニュアル別表1より引用。2019年12月に金融検査マニュアルは廃止されたが、基本的な考え方は大きく変更していないものと想定しております。
(注3)第二東京弁護士会倒産法研究会HP、「債務者区分・債権区分」などを参考。