新規融資の際に押さえておくべきポイント③
~ 運転資本と新規融資の関係 ~
目次
- ● 金融機関からの融資は「運転資金」と「設備資金」の2種類に分類される
- ● 運転資本は中小企業様が事業を行う上で必要な資金または必要資金の計算式
- ● 運転資本の金額は過去の決算書数値のみで判断されない
- ● 金融機関向けの融資依頼資料の有用性
中小企業の皆様、こんにちは。
今回は、運転資本と新規融資の関係として、中小企業の皆様が押さえておくべきポイントを解説いたします。
突然、「運転資本」という言葉を使用したため、構えられる方もいらっしゃると思いまが、気にせず読み進めていきましょう。
金融機関からの融資は「運転資金」と「設備資金」の2種類に分類される
金融機関サイドから見た中小企業様への融資は「運転資金」または「設備資金」の2種類に分類されます(注1)。これは金融機関にとって、貸し出した資金が何に使用されるのかという、資金使途を分類することになります。
資金使途の分類はなぜ必要であるかと言えば、融資の返済期間が異なるためです。事業を前に進めていくための運転資金であれば一般的に3~7年間での返済期間になることに対し、設備資金は7~15年間と長くなります。設備資金については、工場設立や機械購入などに対する貸付のため、機械投資などの回収期間を考慮すると、返済期間も長めに設定できるというイメージです(注2)。
金融機関サイドから見れば、運転資金と設備資金は異なる融資商品となるため、融資を行う際に中小企業様に求める資料も異なります。設備資金については、機械などの見積書の提出を求め融資額の妥当性を検証するでしょうし、見積書の機械購入金額は何年間で回収されるのかという収支見通しの提出を求める場合があります。
他方、事業活動のための運転資金を融資する際に金融機関が求めてくる資料は何でしょうか。社長様が今後3年間で人員を3倍にして売上を3倍にするという魂がこもったお願い資料でしょうか?お願い資料も補足資料になるかもしれませんが、会社によってバラバラの形式になることが予想されるため、受け付けする金融機関の処理も大変になります。そこで、金融機関では運転資金の審査に当たり、横断的に判断できる審査指標を取り入れており、その重要指標の1つが運転資本となります。ようやく、ここでタイトルの運転資本に辿り着けました。
余談ですが、資金使途に反して私物に近しいモノなどを購入する行為は資金使途違反と判断されやすいため十分にご留意ください。
運転資本は中小企業様が事業を行う上で必要な資金または必要資金の計算式
「運転資本=売上債権+棚卸資産-仕入債務」で一般的には計算されます(注3)。直近3ヶ年程度の決算書の貸借対照表から計算します。
まず、プラス項目である「売上債権+棚卸資産」に注目します。売上債権は、「受取手形・電債・売掛金」が一般的です。決算書の貸借対照表に記載されている売上債権を合計することで結果が得られます。
単純事例として、年間売上高が1.2億円、月額平均売上高が1,000万円の会社様とします。仮に決算書の売上債権が1,000万円の場合、この会社は1ヶ月分の売上高相当を資金化できないビジネスモデルであると理解できます。資金化できないビジネスモデルと記載しましたが、月末請求を行い翌月末入金の回収サイトが1ヶ月である会社様は多いと思われます。
同様に棚卸資産について、在庫が2,000万円の場合、この会社は2ヶ月分の売上高相当の棚卸資産を持つ=資金化できないビジネスモデルと解釈できます。
結果、「売上債権+棚卸資産」の合計額は3,000万円となりました。
次に、マイナス項目の「仕入債務」を見てみます。買掛金や支払手形の仕入債務が800万円ですと、売価ベースで0.8ヶ月分(800万円/1,000万円)となります。この会社は0.8ヶ月分の資金流出が直ちに発生しないことを意味します。
以上より、運転資本=1,000万円+2,000万円-800万円=2,200万円となります。この数値が意味するところは、単純事例の年間売上高が1.2億円、月額平均売上高が1,000万円の会社では、事業を行う上で2,200万円を直ちに資金化できないビジネスモデルであるため、2,200万円の運転資本の融資を実行する根拠金額になることです。
なお、単純事例の会社であっても、年間売上高は1.2億円であるが、営業利益が▲800万円の赤字であれば、黒字のビジネスモデルではないため融資を実行することが難しくなります。また、業種によっては、飲食店などでは売上債権が少額である場合や建設業や製造業などは3ヶ月分の支払手形を発行しているためマイナスの仕入債務の金額が大きく、運転資本の金額が極めて小さい場合やマイナスになる場合もあります。
新規融資の判断については、運転資本のみでなく、利益金額や既にある借入金額などが総合的に考慮されますが、運転資本が融資審査の重要指標であることに変わりありません。
運転資本の金額は過去の決算書数値のみで判断されない
長くなりましたが、ここからがポイントになります。上記の単純事例の会社における運転資本は2,200万円と算定されました。仮に既に2,200万円の融資を受けていた場合、追加融資を得られないのではないかという疑問がわきます。
「状況次第によって追加融資を受けられる」が何の変哲もない答えになりますが、運転資本の特性から見た場合、増収基調にあるかがポイントになります。単純事例の会社の翌年度の売上見通しが1.2億円→2.4億円の倍増が見込まれるとすると、翌年度の運転資本も当年度の2,200万円→4,400万円に倍増するためです。売上高の増収に対応する増加運転資金対応みたいな表現もしますが、売上高が大きくなれば売掛金や棚卸資産も増加することが通常ですので増加運転資本に対応して新規融資が受けられやすくなります。そのため、過去3期間の売上高が減収基調にある会社様に対しては増加運転資本が発生する根拠が見当たらないため、新規融資が出にくい状況とも言えます。
ここだけを切り取って見ると、売上高至上主義のような文面になっておりますが、増収になるのだから利益は多くなるはずだよね、と金融機関は当然考えているため利益も重要です。
金融機関向けの融資依頼資料の有用性
ここまでの内容を総括すると、運転資金の融資を依頼する場合、審査指標の1つとして運転資本が挙げられる。運転資本は直近の3ヶ年程度の決算書から計算されるが、将来的な見通しも考慮される、ということです。
将来的な見通しを、担当者との面談で口頭のみで伝えることは避けるべきです。何故なら、担当者はメモをとりますが、数十社の得意先を抱えているため忘れるためです。上記に記載した「運転資金を融資する際に金融機関が求めてくる資料」は、融資依頼資料と私は考えております。融資依頼資料の内容は、①今後自社が注力する、資金を投入する市場の説明、②どのような活動により収益を上げていく方針であるかの資料、③今後3~5年の損益計算書見通し、④販管費見通しの4点と考えます。これらの資料を提出できれば、最低限の数値管理は出来ていそうだとの判断を得られる可能性があると思います。補足事項ですが、試算表は翌月末までに当月試算表を金融機関に提出して頂くことも重要です。
本コラムでは、新規融資の際に押さえておくべきポイントとして「信用保証協会と新規融資の関係」について言及してきました。
今後とも、中小企業の社長様に役立つ情報を定期的に配信していく予定です。
(注1)買収資金貸付などもありますが一般的ではないと思います。
(注2)設備投資の返済期間は、投資対象の法定耐用年数が基準となることが多いようです。
(注3)厳密に言えば、回収懸念が高い売掛金や長期滞留在庫などは、売上債権および棚卸資産から控除されますが、金融機関内でどの程度まで実施されているかは不明です。