新規融資の際に押さえておくべきポイント④
~ 現預金残高と新規融資の関係 ~
目次
- ● 純資産は黒字。創業以来黒字継続、当期純利益5,000万円でも融資を断られる理由
- ● ネットデットの考え方
- ● 最後に ~債務者区分は1年間変更されない~
中小企業の皆様、こんにちは。
今回は、決算書に計上される現預金残高と新規融資の関係として、中小企業の皆様が押さえておくべきポイントを解説いたします。
結論から言うと、「決算書に計上される現預金残高は多い方が良い」が私の答えとなります。この「現預金残高は多い方が良い」の意味するところは「不必要な資金を無理して調達すべき」ではなく、「決算前に無理して内入弁済を実施し借入金と現預金を減少させるべきでない」とご理解ください。
純資産は黒字。創業以来黒字継続、当期純利益5,000万円でも融資を断られる理由
理由は、端的に言えば、決算書の現預金残高が少なすぎたためです。
まず、金融機関の手続きを見ていきます。
金融機関は取引先の決算書を受領すると、(入力担当の方が)決算書の数値を銀行システムに入力します。入力後、(過去の決算データを含めた)決算数値から得られる数多くの財務指標を基に、取引先に対するスコアリングが算出されます。このスコアリングが今後の新規融資の決定に多大な影響を与えます。というのも、スコアリングは債務者区分や銀行内部の信用格付の決定に使用されるため、債務者区分で「要注意先以下」と判定されると今後1年間の新規融資獲得が難しくなります。
そのスコアリング指標の中でも、重要な指標が現預金残高となります。
冒頭の「純資産は黒字。黒字継続であり、当期純利益が5,000万円」でも、現預金残高が少なすぎる場合、スコアリング上の評価が低下し新規融資獲得に至りません。
なぜ、現預金残高はスコアリング指標の中でもこれほど重視されるのでしょうか。
1点目は、現預金残高が少なすぎると企業の安全性、すなわち存続に対する不確実性が高くなるためです。
明日、新型コロナウィルスのような疫病や天災が突然発生する可能性はゼロではありません。仮に発生したら。。。黒字企業であっても、企業活動を維持できず売上が立たないと資金繰りは厳しくなります。
ポイントは次です。仮に天災等が発生し企業活動が出来ない状態に陥ったとして、翌日金融機関に融資依頼をしても、直ちに融資実行が出来る可能性は低いでしょう。
新型コロナウィルスを例にとれば、日本政策公庫の新型コロナ融資や信用保証協会のセーフティネット4号、5号、危機関連保証などの資金支援策が次々と発表されましたが、コロナ発生時より2ヶ月程度は要したと思います。
つまり、金融機関の意思決定プロセス上、新規融資を実行するために必要な期間は最低1ヶ月が必要との見方より、現預金残高が少なすぎると新規融資実行までの期間の企業存続に疑問符が付き、新規融資を実行できないとも言えます。
安全性の別の切り口で言うと、過去に倒産した会社の傾向として、決算書上の現預金残高が低下している、というデータを金融機関が持っており、スコアリングの評価に反映させていることもあります。
2点目は、現預金残高が少なすぎる背景です。
中小企業経営にとって、つまるところ、決算書の利益を最大化させることではなく、現預金残高を増大させることにあると思います。
利益は出ているのに現預金残高が少ないことが示唆することは何?この答えは別のスコアリング指標に関連するのですが、端的に言えばキャッシュフロー経営が出来ていないと言えます。1例として、獲得した利益以上に大きな投資をしてしまうと現預金残高は当然減少します。
ここまで、現預金残高がスコアリング指標で重視される理由を2つ見てきました。それでは、現預金残高はどの水準であれば問題ないのかと思う読者は多いはずです。私なりの答えは、
「現預金残高は多ければ多いほど良い。年商の1、2年分あってもよい。最低でも月商の2~3ヶ月分はもちたい」
最低基準の2~3ヶ月の根拠は、先ほど申し上げた新型コロナウィルス発生から新型コロナ融資までの制度設計期間となります。
では、「現預金残高は多いほど多い方が良い」の根拠は何?と問われれば、特にありませんが回答となります。借入金の多寡と比較した方が良い、という意見もあろうかと思いますが、私個人的な意見として、1金融機関が年商を超える金額を融資することの方が少ないと見ております。
ネットデットの考え方
ネットデットとは、現預金残高から金融機関借入金を差し引いた金額がプラスかマイナスかで評価します。プラスの場合、今日、借入金全額を返済しても手元に現預金がある状態です。
私自身はネットデットをプラスにするような経営を心掛けようと、中小企業の社長様にお伝えすることが多いです。
借入金が100億円あっても、現預金残高が130億円あれば良いということです。
何故、そのような考え方をするかと言えば、
①金融機関はそれほど多くの融資を実行しません。(1金融機関の融資最大額は10億円程度と聞きます)
②金融機関は緩やかな融資金額の増加を希望します。そのため、前期まで1億円借入できていた会社様が、強気の事業計画を作って今期いきなり5億円貸してくれといっても難しい場合が多いでしょう。良い場合でも、2~3億円までが上限でしょう。
金融機関からの借入金を出来る能力も企業価値の1つと言われるゆえんです。
ただ、最近は借入金金利が3%弱にまで上昇してきましたので、手元資金が十分にある中小企業様にとっては、「不必要な資金を無理して調達する」状況ではないのかもしれません。
最後に ~債務者区分は1年間変更されない~
中小企業の社長様におかれましては、最後に1点覚えて頂きたいことがあります。
金融機関のスコアリングによる債務者区分の変更等は、次の決算書の提出まで変更されません。つまり最低1年間は変更されません。
仮に、決算書において「現預金残高が少なすぎた」がゆえに、債務者区分が要注意になってしまった。その後、会社の仕入・経費を全面的に見直して、3ヶ月後の試算表では現預金残高が十分な状態となっても債務者区分の変更はなされません。なぜなら、試算表は仮資料であり、スコアリングの評価対象資料ではないためです。(注1)
「決算前に無理して内入弁済を実施し借入金と現預金を減少させるべきでない」と考えております。
本コラムでは、新規融資の際に押さえておくべきポイントとして「現預金残高と新規融資の関係」について言及してきました。
今後とも、中小企業の社長様に役立つ情報を定期的に配信していく予定です。
コラム:新規融資の際に押さえておくべきポイント①~債務者区分と新規融資の関係~
コラム:新規融資の際に押さえておくべきポイント②~信用保証協会と新規融資の関係~
コラム:新規融資の際に押さえておくべきポイント③~運転資本と新規融資の関係~
(注1)2026年5月より、企業価値担保権という事業の将来性に基づき融資を後押しする法律が施行されております。この法律により、スコアリングと別視点で融資が実行される環境が出来てきております。
